Lovely life

yahooプログから引越してきました。 シャルマリワールドを堪能してください💖 毎日1話づつ17:00にリリースしております。 ご訪問ありがとうございます。 藤本ひとみ先生のマリナシリーズで、カップリングはシャルマリの2次創作です。 気持ちのいいストーリーを心がけています。 ハッピーエンドしか書きません。 2次創作が好きではない方はご遠慮ください。 私のストーリーは、まさかのアデューの別れなしバージョンです。 あの時点から、すっかり分岐しております。 それでもいいよ~の人だけ、読んでくださいね。 なお、ストーリーは全てフィクションです。 全く実際の世界とは関係ございません。 お気に入り登録の際は、ひとことメッセージをお願いします。 素人の文章ですので、突っ込みどころ満載ですが、優しい目で見てやってください。 よろしくお願いします。ぺこっ。 ひな

夕食後のデザートタイム。

私はパリでは珍しい、苺大福を味わい中。
この酸っぱい苺と甘い白餡が口のなかで混り合うのが最高よね~。
そして周りを包む伸びるやさしい噛みごたえのお餅がまた絶妙!
これを最初に考え出した人はすごいわ。と2個目のいちご大福を手にとり凝視した。

「君はほんとに美味しそうに食べるね。
食にそこまで感情を入れられるのは、ある意味すごいよ。」
向かいに座っているシャルルがワインをゆっくりと口に運びながら、ちょっと呆れ気味に言う。

「あのね、シャルル。おいしいものをおいしく食べることは大事なことよ。
それこそが、私が今しあわせかどうかのバロメーターなのよ。
この至福のひと時は譲れないわ!」私は2つめにかぶり付いた。

「もちろん。君から至福のひと時を奪う気はないよ。
幸せそうな君を見るのは、僕の至福の時間でもあるからね。」
さらっと言って、ワイングラスをテーブルに置いた。

なんだかそう言われると、がっついてる自分に少ーし罪悪感を感じる。
だって食べてる時は、私はシャルルのこと考えてないんだもん。
ごめん。私は本能的に、花より団子タイプなのよ。と心の中で謝っておく。

「それはそうと、、、来週、東欧で医師会の研究会があるんだけど、マリナも一緒に行かないか?」

「え?」

うーむ。珍しい。あまりシャルルは私を連れて出張に行かないのに、どういう風の吹きまわしなんだろ。

もぐもぐと口を動かしながら、シャルルの顔をみた。
シャルルは私が喋れるようになるまで、視線を外さないまま待っている。

「一緒に行ってもいいの?」濃いめの緑茶に手を伸ばす。

一口飲んで、思わずほーっと息がでる。

あーおいし!


「研究会は半日だけだから、そのあと1泊してこよう。
どう?今は気候もいいし、行ったことのない国に行ってみたいって言ってただろう?」

行ったことのない国?
私のアンテナは、大福からやっとシャルルの話へと向かった。

「行きたい!」

私は向かいの席まですごい勢いで行って、
座っているシャルルに抱きついた。

「じゃ。決まりだ。」

そう言って、ゆっくり立ち上がって私を抱きしめた。
そして私たちは、苺とワインが混ざり合うのをゆっくりゆっくり味わった。

深い赤色のカーペットがひかれたロビーで、チェックインを済ませた。
ワインのテイスティングはいつでも可能ということなので、少し部屋でのんびりしてから行きますと伝えて、部屋へと向かう。

部屋の広さは、いつも泊まるような大きなホテルの部屋に比べると、そんなに広くないけれど落ち着く部屋だった。
窓からの景色は、ワイナリーの葡萄畑から遠くの山並みまで見渡せた。

外からの風が心地よく、白いシフォンのカーテンをさらさらと揺らしている。

うん。なかなかいい感じ。
ホテルで泊まる時って、始めの印象で心持ちが決まる。
なんだか色が落ち着かないとか、何がって言えないけど何かがしっくりこないような部屋だと夜中にふと起きた時とか、怖くなったりするのよね。

真っ白のレースのベッドリネンに覆われたベッドに、そっと横になる。
今日は朝が早かったから、眠気に襲われた。
そのまま目を閉じる。

あっでも、ランチもしたいし、眠ったらすぐに起きれないような気がする。と考えながら、すーっとそのまま寝入ってしまった。

どうして今は寝ない方がいいなあと思うときに寝ると、こんなにぐっすり眠れるのだろう。
すごく贅沢な時間の使い方をした気分がするからかしら。

いつもと違う鳥の鳴き声で起きたのは、午後2時過ぎだった。

やっぱり寝すぎちゃった。
まあでも、特にテイスティング以外に今日の予定はないから、特に問題はないんだけど。

赤茶色のニットとレンガ色のキュロットに着替えて、階下へと降りていく。
全く他の客とは行き会わない。でもチェックインした時には他のお客さん
もいたから、貸切というわけではないと思うけど。

誰もいないロビーを抜けて外に出て、裏にあるというワイナリーのレストランに向かう。

ホテルとレストランは少し離れているみたいで、葡萄畑の中を、サイン通りに歩いていく。
坂を登り切ると、レストランの建物が見えてきた。
やっとレストランについたのに、ランチは2時までだった。
簡単なものでしたら。と一応言ってくれたけど、無理強いしたくなかったので、大丈夫ですと断った。
ワインのテイスティングは出来ると言うので、チーズの盛り合わせといっしょにテイスティングをすることにした。
こんな感じにお腹が空いてるときは、いつもより酔いやすくなっちゃうかもしれないけど。
テイスティングは基本的に、口に含んで味を確認したら吐き出すもの。
だけど、それだけでもアルコールは吸収される。

テイスティングだけしようと思っていたけど、4種類のワインを試したあと、気に入ったロゼをグラスで頼んだ。
色が薄くて、そんなに甘すぎないロゼ。とっても綺麗。
冷やされているので、すっきりと飲める。
以前は赤ワインを作った後の残った葡萄でロゼを作っていたそうだけど、最近はロゼ用の葡萄を別に栽培するようになったので、以前のように糖度の高い葡萄で作るのではないので、すっきりとしたロゼが出来るようになったとのことだった。
なるほどね。赤や白のように重くなく飲みやすい。
昼間にはこちらのほうがいいわ。
この辺りで作られたという、ヤギのチーズといっしょにクラッカーを食べる。
ヤギのチーズって初めてだけど、臭みがなくてさっぱりしてる。見た目は木綿豆腐みたいだけど。


ほろよい気分でレストランを出たところで、レストランのシェフの人たちがスモッグのようなものをきて、何人か歩いていた。
なんとなく同じ方向だったので、ついていくともなく歩いていくと、レストランの裏に割と大きな野菜畑があった。
これから野菜の収穫するのかしら。
そのうちの1人と目があったので、どんな野菜があるんですか?と聞いてみたら
大抵の野菜はここで作っているとのこと。
今からサツマイモの収穫だという。
それって芋掘りよね。
小学生のときに遠足で行って楽しかったな。
ちょっと見ててもいいですか?って聞くと、じゃあいっしょにやってみますか?って言いながら、芋をいれるためのカゴからお揃いのスモッグを出してくれた。

やった!楽しそう。
スモッグを早速上から着て、いっしょに芋畑に入る。
こんな感じで土を退けて芋を出すんだよって教えてくれたので、その通りにやってみると紫の綺麗な芋が5個取れた。

どんどん隣の芋も掘っていく。
20分ほどやってるとちょっと腰が疲れてきたので、ありがとうって行って芋畑を去った。
今日のディナーでこのサツマイモが使われるといいなあ。
この人たちがどんな料理をこの野菜で作ってくれるのか、ディナーが楽しみになった。

他にどんな野菜があるのか、ぶらぶらと歩いてみた。
林のようにトウモロコシがなっている。
かなりの高さまで伸びてて、実もしっかりついてる。

トウモロコシも、もうすぐ収穫なのかな。そんなことを思いながら
トウモロコシの林の裏へと出た。

そちらには支柱に巻きついて成長した豆がずらっと壁のようにならんでいる。
ここはもう芋畑からは見えない場所になる。

どこからともなくタバコの煙の匂いがした。

たばこの匂いがどこからしているのか、キョロキョロ周りを見た。

次の週、私たちは東欧の小国に着いた。
パリから飛行機で3時間で、、全く雰囲気の違う世界へと降り立った。
ヨーロッパってちょっと違う国行くと、すごく遠くに来たような錯覚を起こす。
この国は日本でいうと四国くらいの大きさの国だそうで、かなり小さい。

ヨーロッパの中ではまだ発展途上にある国で、まだヨーロッパ連合にも入っていない国だから、独自の通貨もあるし、独自の言語を話してて、隣の国とも全く違う風習があるらしい。

飛行機の中でシャルルが教えてくれた。

国際空港とは思えない小規模の空港に、私たちの迎えの車が来ていた。

シャルルは研究会に直行しないといけなかったので、半日私は観光でもしようかと思っていたのに、車の中でそのことを言うと、即刻却下された。

「冗談!こんな英語も通じない国に君を野放しに出来ないね。
この国は危険な国ではないんだが、隣国からの違法侵入があったり、問題がないわけではない。
君は今夜泊まるワイナリーにあるシャトーに行って、ワインテイスティングしたり、絵を描いて待っててくれないか?」
シャルルがちょっとお願いするみたいに目配せした。

ちょっと残念な気もするけど、言葉も通じない国じゃあ、確かにぶらぶらしないほうがいいかもしれない。
明日はずっとシャルルと入れる予定だし、今日はおとなしくしておくことにしよう。

「分かった。おとなしくしとく。」私が答えると、シャルルは私の前髪をそっと横にずらして、露わになったおでこにそっと口唇を押しつけるようにキスをした。

「ありがとう。これで安心して研究会に出れるよ。
じゃあ、あとでシャトーで会おう。」

そう言って彼は車を後にした。


私だけを乗せた車は滑るように高速道路へと入り、30分走ったところで高速を出た。

そこからの道はとっても素敵だった。
紅葉が綺麗で、快晴の空に映えている。
絵のような風景がそこにあった。

今は葡萄の収穫時期らしい。

途中、ワイン用の葡萄をドサっドサっと大きめのバスケットから直にトラックの荷台に積んでるのを何台も見た。

ん?よく見たら作業員は葡萄の上に乗ってる!?

トラックの荷台には四方に板が張られてて、随分上の方まで積めるようになってる。
私が見たトラックももう9割方、積み終わっていて青紫色の葡萄の綺麗な色がよく見える。

うわあ。どれだけの葡萄があの中に入っているんだろう。
下の方とか重さで潰れないのかな。

トラックの横を通る時、思わず身を乗り出して見た。

私のその動きで、今まで一言も発していなかった運転手が、ミラー越しにちらっとこちらを見て、にっこりした。

あらっこの運転手さん。
ずっと憮然としていて、融通きかない人って顔してたのに、にっこりすると、エクボがでて愛嬌がある感じ。
こういう普段怖い顔している人って笑顔になるとちょっとドキッとする。
顔がいい感じに崩れて、ギャップがあるから、いつも笑顔の人よりなんだか特別に感じるのかも。

45歳くらいかな。
肌は白く、髪はダークブラウンで、目はグリーンがかったブラウンっぽくみえる。
フランス人より顔の骨格がしっかりしていて、まつ毛もバサバサ。
この国は色んな国に侵略された歴史があるって、そういえばシャルルが言ってたっけ。
色んな人種がミックスされた 感じなのかもしれない。

そんなことを考えてる間に、車は立派なワイナリーの入り口の門をくぐり、葡萄畑の丘を登ってすすみ、5分後塔のついたシャトーに到着した。

それから1週間後、私はシャルルの寝室にいた。

仕事の書類に目を通す、彼の座るキングサイズのベットの端に腰掛ける。


そして、気になっていたことを聞いた。

「ねえ。そういえば、どうして気を失う前に微笑んだの?」

シャルルがチラッと私を見る。

「ああ。・・・あれはね。」

そう言いながら、書類をベットテーブルに丁寧におき、私に向き合う。


「・・・もし万が一、このまま死んでしまったとしても、弟を庇って、最後の瞬間に愛する人とキスして死ねたら、オレの人生も悪くなかったなと思ってね。

オレには、そんな最後はかつては想像できなかっただろう?

ミシェルに殺されそうになったこともあるし、君はオレの親友のことが好きだったこともある。

そう考えると、ふと幸せを感じたんだ。

ママンにも顔向けできるって、安心したのもあるね。」


私から視線を外し、レースのカーテンに縁取られた窓の向こうの空を見る。





やっぱりあの時、死ぬかもしれないって思ってたんだ・・。


私の頬に涙が一筋、つーっと流れた。


私の様子に気づいて、こちらを見る。

「マリナ。怖い思いをさせて悪かった。
もう大丈夫だから、泣かないで。」

私の頬を優しく右手で包む。

シャルル・・・。



私は目を瞑り、深呼吸した。
そして目を開けると、一気に言った。

「シャルル。私と結婚して!」


私はまっすぐ彼の目を見て言った。






唐突な私の言葉に、シャルルは眼を見開いた。

なんと言っていいか分からないようだ。


私はたたみかけるように言った。

「私にとってシャルルがどんなに大事か分かったの。
シャルルとだったら、どんな大変なことでも乗り越えられる。

シャルルといたいの。

私は自分に自信がなかった。
シャルルの奥さんとしても、アルディの妻としても、私じゃ無理なんじゃないかって。

でももう、そんなことはどうでもいい。

私がシャルルといたいから結婚するの。

一緒に幸せになろう?

今、死んだら幸せだなんて言わないで。
私がシャルルをもっと幸せにするから。」

シャルルの名前を連呼した後、私は強引なキスをした。

彼はまだ固まったままだ。


ゆっくりとくちびるを離し、ブルーグレイの目を覗き込む。

「返事は?」

私はまだ涙の残る目を指の背で拭いて、にっこり笑って聞いた。



代わりに彼の瞳に涙が滲んだ。

「・・・マリナ。君って本当に予想できないね。」

そっと目を伏せる。


しばらくしてもう一度、ゆっくりと私を見上げる。

「でも最高だ・・・。

君からのプロポーズを一生忘れない。

・・・もちろん、返事はウイだよ。」

涙で濡れた瞳がきらめいて、宝石のようにきれい。


シャルルは私を強く抱きしめた。

「ああ。マリナ。これはほんとに現実か?まるで夢を見ているようだ。」

吐息とともに、うっとりと囁く。



私も彼の背中に腕を回し、耳元で囁いた。

「現実よ。・・・でも1つだけ約束して。」

「うん?」

「私を置いて先に死なないで。
ずっと一緒にいたいの。
これからはもっと自分を大事にして長生きしてね。」

彼は目を閉じて、この瞬間を心に刻みつけているようだった。



しばらくしてゆっくり目を開けて、嬉しそうに微笑んで、小さくうなづいた。

その微笑みは今までで一番純粋で、一点の曇りもない美しさだった。


「ありがとう、マリナ。君はオレが全身全霊をかけて守るよ。一生、君だけを愛す。」

そう言って、私の顔を両手で包んで、とろけるようなキスをくれた。

愛してるわ。シャルル。
いっしょにいたい。
心からそう思った・・・。










私の叫び声を聞いて、ミシェルが戻ってきた。

「おい!どうした?」

私の膝の上にぐったりと横たわるシャルルを見て、息をのむ。



力が抜けたように、ふらふらとシャルルに近づいて、そばに膝をついてかがむ。
恐る恐る、ミシェルは耳をシャルルの心臓に当てる。
右手の薬指で頸動脈を探す。

少しして、ほっと息を吐く。

「気を失っただけだ。
かなり厳しいかもしれないが、まだ希望はある。」

ミシェルはシャルルを肩に担いで立ち上がった。
ミシェルの背中で、シャルルの髪がサラサラと揺れる。

外に出ると救急車が停まっていた。
それに乗り込み、シャルルを寝かす。

そのまますぐに病院へと向かった。
私はずっとシャルルの手を握っていた。

どんどん血の気がなくなり、真っ白な顔でぐったりとするシャルルを見ていると、今にも魂が身体から出てしまうんじゃないかと思えて、私の手は震え続けた。

病院に着くと、すぐに手術が行われた。
ミシェルのたっての願いで、輸血には出来る限りミシェルの血が使われた。

私はただ祈っていた。
そしていろいろなことを後悔していた。

ミシェルに会いにきてしまったこと。
シャルルは私に外に出るなと言っていたのに。

そしてどうしてあの時、叫んでしまったのか。

シャルルをこんな目に合わせたのは、間違いなく私のせいだ。

シャルルはいつも全身全霊で私を守って愛してくれているのに、私は彼のプロポーズにすら返事をはぐらかしている。

もしシャルルに何かあったら・・・。
そう考えるだけで目の前が真っ暗になり、鳥肌がたった。

私は一生後悔するだろう。

シャルル、ごめんなさい。
お願いだから、私の元に帰ってきて。

私、あなたに伝えなきゃいけないことがあるのよ・・・。





3日間、昏睡状態が続いた後、シャルルが目をさました。

「シャルル!私がわかる?」

私がシャルルの顔に覆いかぶさるように近づいてきくと、
シャルルがゆっくり頷いた。

よかった・・・。

緊張の糸が切れて、シャルルのベットに倒れこむように、私は意識を失った・・・。


「シャ、シャルル。私、どうしたらいい、、?」

怖くなって、私は聞いた。


「マリナ。落ち着いて。
まず止血しないといけないから、このシャツで傷を強く抑えるんだ。

・・・出来るね?」

シャルルは落ち着いているけど、血はまだ流れてて、顔色も悪くなってきたような気がする。


「もしオレが気を失ったら、ミシェルを呼ぶんだ。いいね?」シャルルが優しく私の頬を包むように右手を当てた。

シャルルの目はとても穏やかだったけど、気を失うかもしれないくらいの状況ってことなの?

私は泣きながらうなづいた。
早く止血しないと。

シャツを丸めて持って、思い切って強く抑える。


シャルルが、「うっ・・・」と、呻いた。

脂汗が額から、とめどなく流れる。
苦しそうに一点を見つめながら、荒々しい息づかいをしている。

これでいいの?

私はシャツを見た。
血で赤くなっている。
止まったの?
動転している私には分からない。


シャルルが私を落ち着かすようにゆっくりと話す。

「・・・マリナ。止血出来たようだ。ありがとう。」

シャルルは、立ってられなくなったのか、両手でシャツを押さえたまま、後ろの壁に背中を預けて、ズズッと座り込んだ。

顔を上に上げ目を閉じて、痛みに耐えてる。

「シャルル。私、ミシェルを呼んでくるから、ここで待ってて。」

シャルルは私を仰ぎ見て、ふっと微笑んだ。

儚げなその様子に胸を突かれた。



「シャルル?」

私は彼のそばまで自分の顔を近づけた。

荒かった呼吸が少し落ち着いたようだが、脂汗は止まらない。
身体も小刻みに震えている。

「・・・シャルル。大丈夫?」

彼の額の冷たい汗を手で拭った。


血は止まったって言ったのに、様子がおかしい。



「マリナ、キスして、、。」

シャルルが呟くように言った。

えっ!?キスって言った?



「ど、どうして?」

私は焦って言った。


「今、キスしたい。」

シャルルが真剣な目で訴える。



私は少しでも痛みが消えるならっと思って、シャルルのくちびるにそっとキスをした。



・・・シャルルのくちびるはかなり冷たかった。



えっ!?と思ってシャルルの顔を見ると、ちょうど目を閉じて、気を失うところだった。



「シャルル!!」

崩れるシャルルの体を支えながら放った私の叫び声が、静かな空間に響いた・・・。

間一髪でドアを閉めたシャルルが、鍵をかける。

「こんな鍵じゃあ、1分も持たないな・・・。」

呆れたように言いながら、私の腕をつかんで、別荘の奥へと入っていく。

「なんだ今の音は?」ミシェルが奥から出てきた。

シャルルを見て、動きが止まる。

「シャルル・・・。どうしてここに!?」
ミシェルの顔に怖れとも怒りとも取れる表情が浮かぶ。

「理由?決まってるだろ。マリナがここにいるからだ。」
シャルルは不機嫌に答える。

私はそれよりさっきの銃声で、恐怖に陥っていた。

「シャルル、さっきの銃声何?」

「ミシェルを殺そうとしているやつだろ?
マリナを尾行したようだ。
今にもこの中に入ってくるだろう。
オレは反対する自分のボディガードを撒いて、先に到着したからね。
ボディガードの到着を期待するより先に、この状態をなんとかしなければならないな。」

そう言いながら、窓のブラインドを指で開き、外の様子を伺う。

その時、玄関のドアを蹴る音が聞こえた。

ミシェルは私たちを危険に巻き込んでしまったことに、愕然としているようだった。

「なんでこんなことに・・・!
いや、まだ間に合う。
オレが出ていく。もともと自分の蒔いた種なんだから、当然だ。」

「いや。
仮にお前が出て行ったとしても、プロなら証拠隠滅のためにオレたちも殺そうとするだろう。
オレたちがこの状況を変えられるとしたら、相手に不意打ちをくらわせて応戦する以外ないだろう。
向こうは1人。こっちは男が2人。銃さえ抑えられたら、なんとかなるかもしれない。
ミシェル、ここは一か八かやってみるしかない。
覚悟を決めろ!」シャルルが一喝した。

ミシェルは手をぎゅっと握って考えていたけれど、
低い声で「分かった。」と言った。


玄関の戸が大きな音を立てて、倒れたようだ。

ついに暗殺者がこの中に入ってきた。

できるだけ奥へ奥へと逃げる。


そしてついに私たちは最後の部屋に追い詰められた。



「マリナ、そのドアの陰に隠れろ!」シャルルが叫ぶ。



私は転がるようにドアの後ろに隠れた。



反対のドアから入ってきた暗殺者が、部屋に入って止まる。



彼から見て、左手にシャルル、右手にミシェルがいる。

彼はどちらがミシェルか、分からないようだった。

それこそがシャルルの作戦だった。
一瞬の隙を作る。


「マリナ、静かにそこにいるんだ。」
シャルルが相手に聞こえないくらいの声で言った。

追っての銃がシャルルに向けられる。

私は思わず叫んだ。

「きゃあ!シャルル!!」

その瞬間、銃はミシェルに向いて、同時に引き金を引いた。
シャルルはその男に向かって体当たりした。

一瞬の出来事だった。

ミシェルは弾を避けるように横に飛んだあと、
シャルルに吹っ飛ばされて壁にぶつかりバランスを失った男に馬乗りになって、
銃を取り上げ、首の後ろをビシッと叩いてあっという間に気絶させた。


「おい!シャルル、大丈夫か?」

ミシェルがシャルルを振り返る。

それまで私はシャルルが怪我をしたなんて思ってもなかったので、心臓をぎゅっとつかまれた気分だった。

「シャルル・・・?」

嘘でしょ?大丈夫よね?

私は壁に寄りかかって、うつむいているシャルルに近寄った。
髪が顔を隠して、表情が見えない。

返事を待てないかのように、ミシェルが走り寄ってシャルルの体を確認する。

「どこだ?撃たれただろう?どこを撃たれた?」
ミシェルが焦ったように聞く。

私はガクガクと膝が震えだした。

前屈みになって、下腹部を抑えていたシャルルの手の指の隙間から、血が滴り落ちた。

私は息を飲んだ。
叫び声も出ない。
口が渇いて、声が出ない。

「見せろ!!」ミシェルがシャルルのシャツを乱暴に脱がした。

シャルルが痛そうに呻いた。

「・・・大丈夫だ。急所は外した。」
シャルルが冷や汗を流しながら、苦しそうに言う。

血がいっぱい出てきてる。

「くそっ!」

ミシェルが壁をバンと叩いた。


「すぐに摘出手術する。待ってろ。」

そう言って、ドアから飛び出していった。

ミシェルの居所は3時間で分かった。
以前、ラファエルがパリにいたときに滞在していたあたりらしい。

あとはミシェルが連れてこられるのを待つだけ。

そう思って安心したのに、アルディ家の者が行ったときには、すでにミシェルはそこにはいなかったらしい。

すんでの差でミシェルに逃げられてしまい、捜索はまた続けられた。

ミシェルがアルディ家からも逃げてるということは、敵が2つあるという状態だ。
そんなことをしている間に、暗殺者が彼に近寄ってしまうんじゃないかと思うと、気が気でなかった。

ミシェル、お願いだから抵抗せずにここに来て。
私は捜索の情報を逐一、私にも知らせるように執事に依頼した。


少しして、新しい情報が入った。
ある別荘にチェックインした男が、ミシェルかもしれないので、確認に向かいますとのことだった。
執事さんに聞いたら、パリから車で45分くらいの町だという。

私はミシェルに一度会って、説得するべきだと思った。
だって、またきっとミシェルは逃げてしまう。
連れてくることは難しいだろう。
自分の意思でここに来てもらうしかないように思えた。

すぐに車を出してもらい、私はアルディ家を後にした。
シャルルに言ったら、反対されるだろうし、そして暗殺者が間違える可能性のあるシャルルは来るべきではない。

ごめんね。じっとしていられなくて。
説得して、必ずミシェルを連れてくるから、今は行かせて。

私はバックウィンドウ越しにアルディ家を見ながら呟いた。



田園風景を走って、ついにその別荘に着いた。

捜索隊には、私が確認するからそれまではミシェルに接触しないで欲しいと伝えておいた。

ドキドキしながら、ドアをノックする。

中からは何も返答もない。
物音もしない。

しかし次の瞬間、ドアがすっと開いた。
ドアスコープで中からこちらを見て、向こうからは私が見えていただろう。

そこには間違いなくミシェルがいた。

「ミシェル・・・」


ミシェルは信じられないという顔をして、怒鳴った。

「君はこんなところへ来て、どういうつもりだ?
危険があることは知ってるんだろ!?
今すぐここを離れろ!」


「ミシェル、聞いて。
シャルルは大丈夫だから、アルディに来て。
シャルルも心配してる。
こんな逃亡、危険すぎるわ!」

「オレのことはほっといてくれ。
巻き込まれるぞ。
どうしてオレにそんなに構うんだ?」

「あんたが大事だからよ。
シャルルにとって、あんたは最後の家族なの。
ほっとけるわけないでしょ!?」

ミシェルは身を見開いて、止まった。

「そうよ。あんたに死なれたら困るのよ。
だから早く安全なアルディに来て。
それがシャルルの望みよ。

迷惑かけていいんだってば。
だって、家族なんだから!」

そうよ。家族なのよ。
こんな時に遠慮しないで欲しい。

私はミシェルの目を見続けた。

しばらくお互いの目の中を探り合っていたけれど、
ミシェルはふっと息を吐いて、力を抜いた。

「家族・・・か。こんなオレたちでも?」

声が少しかすれてる。


「当たり前よ。もうなってるじゃない?
お互いを思いやる家族愛があんたたちの間にあるもの。」


ミシェルは目を伏せて、ふっと笑った。

「君って、なんていうか、心にすっと入ってくるね。
シャルルが君を必要としている意味が、初めて分かったよ。」

私はミシェルが心を開いてくれたのを感じた。

嬉しいけど、今は感傷に浸っている時間はない。
出来るだけ早くアルディに戻らないと。

「ミシェル。何はともあれ、すぐにアルディへ行こう。
いいわよね?」

「分かったよ。君には負けたよ。
こんな風に危険なところに君が来てしまうくらいなら、アルディにいた方がいい。
すぐ用意して行こう。」

そう言って、室内に何かを取りに入った。

そのまま玄関で待っていると、10mほど先に車が止まった。

「マリナ!」

そこからシャルルが駆け出してくる。


「シャルル!?」

なんで?どうしてここにいるの?


私に向かって一直線に走ってくる。

「中に入れ!マリナ!!」

シャルルが切羽詰まった顔で叫びながら、私をドアの中に押し入れた。


そしてそれと同時にパンパンと乾いた銃声がした。

「思ったより、世話の焼けるやつだな・・・。」
シャルルが、ほうっと息をついた。

「ふふっ。でも思ったより、いいヤツとも思ってるんでしょ?」
だって、シャルルのために離れてくれたんだもの。

シャルルが少し眉を上げた。

「とにかく、アルディの総力をあげてミシェルの行方を探させているから、マリナは何もしないこと。
君が動くと、オレの心配が増える。いいね?」

「はいはい。それより、あのメールにどこにいる?って聞いたらいいんじゃないの?」


「もちろん、連絡用に使ってたメールアドレスにもコンタクトしてみたが、返信はない。
この先、連絡を取ってこないつもりかもしれない。

でもまだフランス国内にいれば、すぐミシェルは発見出来る。
特に今回のように、無計画に逃亡した場合はね。」

シャルルが話が終わったとばかりに立ち上がる。

「ミシェルがアルディに来ることを承知するかしら?」

「させるさ。しなければ、拉致してでも連れてくる。
一旦アルディに入ってしまえば、ヤツも諦めるだろう。

それと並行してミシェルから暗殺者の情報を聞き出し、先手を打って捕まえる。」


「シャルル・・・大丈夫よね?」

計画は完璧だ。
でも何か漠然とした不安が雲のように広がる。

「大丈夫だ。」

シャルルは安心させるように座っている私を抱きしめた。
シャルルの温もりと、香水の香りが私を包む。

私もシャルルを抱きしめた。
深呼吸して、自分を落ち着かせる。

どうかうまくいきますように・・・。



「理由、思いつかない?」


シャルルが私を見て問いかける。



ミシェルがどうしてここに来たくなかったか・・?

「迷惑をかけたくない、、、から?」

私にはそれしか思いつかない。


「オレもそう思う。

でもミシェルは一度は、ここに来ることに同意した。
それなのに、慌てたように消えた。

いなくなるなら、せめてちゃんと入国手続きをしてからでも良かったはずだ。
入国手続きをしていないから、今度はフランス政府との問題になってしまう。

そこまでして消えなければならない理由。

きっとミシェルは、ヤツを狙っている者が近くにいることに気付いたんだ。
いるかいないか分からなかった暗殺者が、実際にいることが分かった。

アルディに来ればミシェルの安全は確保される。

ただ、その分オレは危険にさらされるかもしれないと思ったんだろう。」

「どうしてシャルルが危険にさらされるの?」

「暗殺者がミシェルがアルディ家に入っていくのを見たとする。
ミシェルはこの屋敷から出ないとしても、オレは仕事で外に出るだろ?
オレたちが双子と知っているとも限らないし、ミシェルと間違えてオレを襲ってくる可能性はある。」

「あっ!!」

私は思ってもいなかった事を言われて驚いた。

「いるかいないか分からない暗殺者なら確率も低いが、いる事が確実なら狙われる確率も高い。
それを避けるには、一度もアルディへ入らないことが一番だと判断したんだろう。

入国手続きが終わればすぐにアルディの迎えと接触する事になる。
だから、その前に消えないといけなかったんだ。」

「じゃあ、シャルルに危険を持ってこないために、ここへは来なかったという事なの?」

「それしか考えられないね。」

シャルルが向かいの椅子に座った。


私はなんて言っていいのか、分からなかった。

ミシェルを救いたいと思った。
でもその事でシャルルに危険が及ぶなんて、思ってもみなかった。

シャルルはそうなるかもしれないと分かった上で、ミシェルをここに呼んだんだ。
だからミシェルの行動にも、すぐに合点がいったのね。

どうしたらいいんだろう?

このままじゃあ、ミシェルはフランスでもお尋ね者だし、どうやって暗殺者から逃げるの?
やっぱりここに来るべきなんじゃない?

でもシャルルが危険にさらされるのは耐えられない。
シャルルもミシェルもほとぼりが冷めるまで、この家に篭っててほしい。

「シャルルも当分、外に出ないっていうのは無理なの?」

「無理だね。当主が表に出ないといけない事はいろいろある。
もちろん最小限に厳選するつもりだったけどね。」

「シャルルはどうするべきだと思ってるの?」

「入国手続きの件は裏で手を回して処理した。
フランス当局から追われる事はない。

ただ暗殺者の方はミシェルを追いかけ続けるだろうから、手を打たなければならないね。
何としてもミシェルに危害を加える前に見つける。

ミシェルはここに来るべきだ。

オレには絶えずSPがついてる。
オレの事を心配する必要はない。
襲われる事はないよ。」


本当に大丈夫かしら?
シャルルが狙われるかもしれないっていう事実が消えるわけではない。

でもそれしか方法がないように思える。

私はシャルルの目を見てうなづいた・・・。

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